●;気になる言説(2)

●;松本健一氏の『思想としての右翼』(論創社・00刊)にこういう一節があった。

戦前の日本を支配していたのは右翼だ、という説がある。これは、おもうに、戦後民主主義のつくりあげた神話である。それが神話である所以は、戦後の日本を配していたのが左翼であねという説を対置してみれば、一目瞭然となろう。左翼は戦後の日本を支配してなぞはいなかった。戦後日本の支配者は、進駐軍であり、その進駐軍と結んだリベラルたちだった。かれらは進駐軍と結ぶことによって、はじめは民主化、のちには右傾化をおしすめた。左翼は、そのはじめの路線上において、リベラルに利用されただけだったのである。 戦前において、右翼が時代の表面に多く出たのも、これとほとど同じ理由によってであった。支配階級はやはりリベラルたちであり、かれらは日本帝国主義の意向に従って、より多く右翼を利用したのである。右翼は左翼よりも、より利用のしがいがあっただけにしかすぎない。

松本健一氏は、「戦前日本を支配していたのは《戦後民主主義の神話》と言っているが、正しくは「戦後思潮」というべきもので「戦後の言説空間」であろう。その「言説空間」をリードしたのは、「右の人」から指弾される「岩波書店や朝日、毎日新聞」ら活字メディアではなく「戦後文学」派ら文学者たちである。戦後日本で、文学者たちが言論をリードして来た側面があるが、この理由はよくわからない。国民国家の形成のために「文学」が使われたというのは分かるが、戦後いち早く各紙誌で世を指導?した人が誰だったかつまびらかにしないが。戦争の悲惨さを「文学的題材」にした一部の人々(野間宏『真空地帯』など)は、詩人たちも含め武井昭夫吉本隆明『文学者の戦争責任』によって批判される。支配階級によって「利用された」右翼内部からの批判は生まれなかった。