●;本を買う(読む)理由(1)

●;書店などで「本」を買い求める理由の一つに「自分と(何かで)<同質なもの>を発見した時がある。車谷長吉のエッセイ集『文士の魂』(新潮社・01年)をつまみ読みしていたら、嘉村礒多を読みはじめた動機が氏の本名が「嘉彦」だそうで「嘉(彦)」という「同名の一字」にあったという一文があった。《たあいのない動機である》と記しているが、記号である他人の姓名のたった一文字が自分と繋がりがありそうだと、瞬間的に思いこむ。そんな経験は誰しもある。オーバーに言えば自己同一性への希求である。<同質性>に勝るものはない。自分と重なる「何か」への短絡、妄想が生まれた結果が「交換(=買い)」に走るのである。
ちょっとした本屋さんが《本との出会い》といったいかにものキャッチコピーを飾ることがあるが、大量の書籍の入れ物である大型書店が集客にいそしむのは当たり前だけれど、このコピーがちょっとずれているなと思うのは、顧客の身体的な個別性、固有性と交叉することに楽天的なところだ。いっぱい「本」を並べて置けば、読者は自ら選んでくれるであろうという期待感である。「本」を買うとか、その接近-所有-閲読などは「惹かれる」というよりは《たあいのないもの》にグイと「牽かれる」のである。