●;『言論統制』を読む(2)

●;佐藤卓己言論統制…情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』(中公新書・04刊)で教えられたこと(あるいはそうだったのか?と反芻すること)がいくつかあった。
士官学校は<農村的ハビトゥス>を再生産する文化装置」という著者の指摘がそう。「ハビトゥス」とはフランスの社会学者、ピエール・ブルデューの「社会的に形成された習慣」といった意味で「出自や教育に規定された実践感覚であり、行為や言説を構造化する心的システム」と説明されている。
末松太平私の昭和史』(みすず書房)などで、昭和期の士官学校出の将校の姿を知ったが、2.26事件で決起した一人、安藤大尉が<農村的ハビトゥス>の典型と言えようか。農村出身兵士ら下士官から故郷の疲弊ぶりをよく知らされていたという話は、伝説化され「叛乱青年将校のイメージ」を形成している。
●;1918年、24歳の鈴木庫三茨城県の農村から士官学校に入る。旧制中学からのストレートではない。志願兵として職務に就きつつ猛勉強の末、三度目に入学を許される。大正デモクラシーのまっただ中、都市圏の(旧制)中学生が(旧制)高校〜大学へと進んだのに対して、地方の中学生からの陸士志願は多かったそうだ。「社会全体の学歴エリートの威信体系でも陸士は傍流であった」という。東京帝国大学法学部を「最上」とする「威信体系」が整備されていた(なぜ、そうなったかには興味がある)。士官学校の優秀者が「陸大」受験者に、その「天保銭組」は、陸大卒業年次と卒業時の成績が「官報」によって公示され、その「成績」は、生涯軍隊生活につきまとう。この「威信体系」は今でも上級国家公務員試験合格者らに連なっている