●;権力的なもの…職務質問

●;図書館に借りっぱなしの本あり。「返却期間、過ぎてますよ」という催促電話を貰う。恥ずかしい(だらしがねぇよな)、申し訳ない〜の感情、生まれる。連日の夜更かしが祟って(昨夜は朝までタダ原稿書き)、体調がイマイチで、朝から食欲がない。冷たい水だけの補給。
車で5分ほどのところに図書館はあるのだが、駐車場に車を入れるのがえらく億劫な気分になって、自転車で行くことにした。マウンテンバイクとは言うものの庭先に雨ざらしにしてあるから(私同様に)相当にくたびれ果てている。左ブレーキは利かないし、賞味期限切れ以上のがらくたの類、文字通り誰も見向きもしない廃棄物オンボロ車である。
自転車に乗った瞬間、タイヤがペタッとひしゃげている。家には自転車用の空気入れがあるのだが、引き返して空気を入れ直す気も起こらない。のしかかるような暑さも手伝って無気力な日曜日。余計なことは何もしたくない。人通りの少ない商店街を突き進む。ま、騙し騙し行けそうだ。
●;ペダルを踏むと奇怪な音が出る。アブラも切れているからチェーンも外れ掛かる。「参ったな、ま、どうにかなるか」と自分同様のヨレヨレ状態に自虐的な肯定感が沸く。図書館前には自転車屋さんがある。二年ほど前にブレーキ点検を安くしてもらった。そこのオジサンの親切の味を覚えている。そこまでの辛抱さ。表通りを避けて見知った住宅街を縫って進む。とある坂道の下りで自転車に乗った警察官が眼に入る。次は神社前のちょっとした上り。普段ならエイヤっとペダルを強く押して登り切ってしまうのだが、体力が落ちているので自転車から降りる。図書館まで転がして歩いて行くことにした。
「ちょっと、よろしいですか?」と声がかかる。
振り向くと、若い太っちよの警察官がいる。ギョッ!先ほど、チラッと見かけた、な。
「はぁ?」
「自転車どうなさったのですか?」と聞く。
自分のアレヤコレヤを説明する気力が起きないでいると、
「ちょっと、調べさせていいでしょうか?」という。自転車泥棒と見たらしい。
「なんで?」とささくれ立つ、私。
「どうして直さないのですか」と聞く。(こっちには説明できないいろんな事情があるんだよ)
「空気が抜けているのは、わかってんの。図書館前の自転車屋さんで直そうと思ってんの」と、ぶっきらぼうに答える。
「パンクした自転車を乗っていて、私を見かけたら、とたんに車を降りているから、おかしい」みたいなことを言う。要するに彼は<不審人物>という判定をしたらしい。ずっと跡を付けていたことにモーレツに腹が立ってくる。
職務質問するその根拠はなんだ!」と私。
警職法何条の○○」と彼は答えて「調べさせて」と、語調が威圧的になる。
「いやだね。図書館に本を返さなきゃならないの。それが先だよ」
彼は、こっちの事情を聞かずに迫る。「ここで」と、道路際で調べようとする。
「やだね。みんなの前で、図書館前の人が一杯いるところでオレを調べたら」と、私。
彼を連れて図書館前の駐輪場に。
「調べが済んだら、○だったというあんたの証明書を置いておけ」と、私。
「そんなこと出来ない」と彼。
「じゃあ、パトカーを呼べよ。<怪しい>と思ったのはあんたに根拠があるんだろ。ならぱ、当然、警察署に連れて行くのが仕事だろ。なんでもなかったら署長に詫び状要求するからな」と屁理屈を述べる。
「いや、そんなことは出来ません」と警察官。「そんなことしなくてもすぐ終わりますから」と丁寧な口調になる。予想通り、図書館前では<危ないもの>を見る人が少しずつ遠巻きになる。
警官は私に懇願する。自転車のプレートに貼り付けられた番号と私が言った氏名を、その場で「個人情報」の集積所である警察の部署に電話で確認し、一仕事を終えた。
「簡単に終わったのですよ。警察に協力して下さいよ」と捨てゼリフ。バカヤロウ!
●;ま、ヨレヨレの自転車に乗った男を「フツーじゃない」と訝しむのは、フツーの市民感覚でもあることだ。ただ、彼の「判断基準の恣意性」が、こっちの事情、つまり「形も含めて所作の恣意性の自由」を制服をまとった姿で、脅かされたり、恫喝されるのは「冗談じゃないぜ」。