宮武謹一さん逝く(4)

●;宮武謹一さんに惹かれ興味を持ったのは、その学殖の豊かさではない。まして情勢分析家としての氏と議論する相手ではない。なりたくてもとてもなれなかった。月並みに言えば<昭和という動乱期を生きた精神>についてである。小熊英二が網野義彦との対談で網野氏を表して「同時代の思想から影響を受けるというよりは、時代精神が網野の形とって現れるタイプ」と評していたが(網野義彦対談集『日本をめぐって』・講談社・01年)、小熊が言う<時代精神>に近い。
宮武さんらの時代思想といえば、1917年ロシア革命をリードしたレーニンらの根拠であるマルクスであるが、宮武さんは「資本論の第一篇はいいが」と言われたことがある。ナンノコッチャわからなかった(黙って聞いていただけ)。マルクス全集やレーニンスターリン全集の中に革命があると信じ、その正統を名乗る党派の指示どおりに動いた当時のインテリゲンチャは山ほどいる。その不幸、その悲喜劇を演じさせられた例は枚挙に暇がない。