●;雨の日、郊外都市へ

●;私鉄沿線、初めて降りた駅。プラットフォームはよく清掃されていて塵一つない感じ。が、なぜか人寒い。襟元を冷たい風が攻めているからではない。この会社のトップが現場に来る時(つまり降臨する時)、窓枠の塵一つ、階段の手摺、絨毯の皺一つ舐めるように掃除させられていたという話とダブって来た。「イヤな会社だねぇ」と、当然のような感想をもらしはしたが、これはこの会社特有のものではないだろう。このテンノウヘイカのキンキン声を好まないが、それだけで忌避するのも大人気ない。
●;会社組織の支配する側が「個」を押し潰すとかとかの「組織VS個人」の二項対立図式で「個の自由」を語る人がいるが、こういった通俗的な意見は、実は何も語っていない。「権力の発生(の秘密)」について固定的な観念を持っているだけだ。
「権力の発生」は<流通する「情報」の集中とその「情報加工」の物質化による(浸透)である>。どんな組織でも一定の役割を果たす者は、組織間に流れる「情報」に敏感になる(「情報」が流れない組織は死体である)。彼に味方する「情報」と敵対する「情報」を峻別し、ちっぽけか大きいかは別として<党派性>を発生させる。ここまではよくある話。生命組織は「情報」を使い分ける。問題は「情報加工」だ。彼によって加工された情報は生成変化し物質化する。つまり別のものになる。そこが「権力の発生源」だ。
●;かくて彼は、権力行使をする。ちっぽけな権力者とそうではない人との「差」は、彼が描こうとした画、デザインの大きさ、「どこまで行くんだ」である。遠景まで描こうとした画と、自分かが好きなものを克明に描いた画の違いは(対象に対する好みの問題は別にして)「遠くまで連れて行って<何か>を見せてくれる期待感」の差として現れる。むろん、彼固有の生の欲望として、だ。
●;雨が降るかもという予報あり。初めて訪問する会社とあって、いささかの緊張もあるが快い。こういう時はコートも着ないで武張ることにする。プレゼンは6割の出来、しゃべり過ぎたと反省する。昨夜のプレゼンシートの用意やら、なんやかんやで睡眠不足だが、こういう時はテンションが上がる。ぐっと若い時の死ぬかもしれぬ岩登りを目指す時興奮時に似ている。神経だけが高ぶる。イライラ感とは違う、精神の昂ぶりに近いものがある。
●;一仕事追えて駅へ戻る。雨はまだ落ちてこない。遅い昼飯を食べたくて店を探す。大きなマンション群に包囲された城砦の底にある駅近くにあるのは、人気のない大型スーパーと消費者金融、予備校、英会話学校の派手な看板。やっと探したラーメン店で函館ラーメンをむさぼる。別にうまかない。何が函館じゃ。隣のビルの消費者金融色の(つまり原色系の)「ブックオフ」に入る。松本清張『象徴の設計』(文春文庫)350円でゲット。山県有朋による日本軍隊創設記だ。帰りの車中での読み物としてはいいかな。実際は数ページで眠くなる。都心へ戻ると、小雨らしきものが申し訳なさそうに降ってきた。重たくもない雨。