●;東国の人の死(2)

●;土浦までは上野駅から常磐線で1時間強、椅子の下が熱い。少し眠る。先週亡くなった従兄弟が国鉄マンの特権を使って東京までタダで乗せてくれたのもこの常磐線。上野まではえらく遠かったな。
土浦駅に降りるのは何年ぶり。駅前はどこの駅も同じ風景だが、時間があればそこらをうろついて町の襞の部分、面白いものを見つけたいところだが、通夜の時間が迫っているのでタクシーをつかまえる。女運転手なり。ラッキー。彼女が使う茨城弁がいい。尻上がりのイントーネーションに<いばらき>を受け取る。
●;真新しい葬祭場はホテルのよう。先週の従兄弟の葬儀場もキレイだったが、万事が整えられ様式的である。死者と生者の別れを営む場所としては感情の揺れが鈍る側面がある。儀式とはそういえうものか。清めの席で遺族らのお酌でビールと寿司などつまむ。奥さんの腰周りが大きい人と思い込んでいたが、全然そんな感じではなかった。背中が痩せていた。一体、何を記憶していたのだろう。ある対象に勝手な想念を抱いて<像>を形作ってしまう錯誤の恐ろしさ。彼女に頭を下げられて「ご迷惑をおかけして〜」の言葉に沈黙する。
学生時代のイリエさんが仲間たちにつけたニックネームの出来がいい。秀逸。「旗振り」という女性がいた。デモの先頭で威勢よく旗を振る姿が想像できる活発な人だ。彼女は博多から告別式に馳せ参ずるとか。そんな情の人だ。「メンタマ」という女性はなかなかきれいで目玉が格別大きかった。この日も来ていたけれど「スーピン」→スッピン」と名づけられた四角い顔の持ち主。確かにメガネの眼を足すと四筒だ。こういうウィットがイリエさんにはあったらしい。
●;大学は違っていたが、彼らが卒業または中退してからの付き合いである。接点を作ったのは<あいつ>。<あいつ>が媒介になっている。<あいつ>はまさしく彼らの中のリーダーであった。ある全国紙の内定をもらっていたが、下級生たちの大学本館占拠につきあってしまう。無茶をする<あいつ>。むろん「内定」は取り消し。仲間たちの大半は、大手新聞社やテレビ局、自動車会社などに勤める。<あいつ>は学校叛乱者として中退組へ。まともな会社に拒まれた大半は新興の会社か学歴なんか関係ない出版業界へ。そんな時期もあったな。帰りの常磐線の車中、連中の輪の中に完全に入ったわけではないけれど、イリエさんのエピソードだけではなく、今まで知らなかった彼らの学校の小事件などの聞き役に回る。