●;東国の人の死が続く

●;携帯が鳴る。のそっとした声が届く。ゆったりとした口調も大柄な体躯そのものだが、圧倒感がある。彼が電話してくる時はいつも「<あいつ>に連絡してくれないか」だ。大概は不幸な事件の知らせばかりだ。
「イリエが死んだんだ」。
「エッ」。今年の年賀状の宛名は版で押したようなカッティング文字だった。「弱っている」とかの<病>の気配はなかった。確か「お元気で!」とだけ記して正月の三日か四日に投函したはず。
「どうして?」と聞きながら、自死かとそのシーンを想像する。
家で酒を飲み、朝まで帰らなかったらしい(首でも吊ったのか)。奥さんが家の回りを探したら近くの川の畔で凍死していたらしい。何かを拒否しての自殺に近い話じゃないか。
「どうしたんだよ。イリエさん!」
通夜と告別式の日取りを伝えられる。金曜が通夜で土曜が告別式とか。土曜はどうしても自分が肝いりしているあるイベントのために東京を離れられない。金曜の夜は、昔の職場仲間の恒例の新年会。初めて誘った連中もいるのだが、それをエスケープすることにしよう。
●;数年前、土浦の病院に入院していた書き手の遅筆を脅かしに行った帰りに訪ねたことがある。電話を突然かけたら「どうしたんですか」とびっくりして聞くから「イリエさんに会いに来た」と惚けた。彼の家は土浦駅前の賑やかでない側のそれでも一等地にあって、広い土地を駐車場にしていていくつかの車が置いてあった。奥さんは<お母さん>風だった。腰回りの大きな落ち着いた人で私らがしゃべり込んでいた書斎にお茶を持ってきた以外には顔を出さなかった。娘さんが女優になってテレビに出ているとか、息子さんがライターになりはじめているとか以外に何の話をしたか覚えていない。ただ、ほんの少し滞在しただけだ。
●;「<あいつ>に連絡出来ないか」と携帯して来た男が言う。連絡することを約束する。<あいつ>が属している鹿児島の会社に電話する。「今はフィリピンにいるのですが〜」と会社の女性が。「ユウジンが死んだので連絡を頼む」と。
1時間して<あいつ>から電話がかかって来た。
「今、ダバオにいるのだけど、何かあったのか?」
「イリエが死んだんだよ」。
「エッ」