●;古井由吉氏の「書く」ということ

●;朝日新聞文芸時評(04/12/22夕刊)で島田雅彦が書いていた。
《それにしても、一日たりとも書かない日はない古井氏の小説への執着はいったい何に由来するのだろうか? 私は面と向かって訊ねたことがある。氏は不気味な微笑とともにこういった。……憎しみだね。
確かに世界に対する憎悪は強靭な執筆のエンジンになりうる。自分の存在を希薄にするような世界に対しては、おのが存在を呪いの言葉とともに刻みつけてこそ復讐になる》。
《古井氏はこうもいった。……書くことがなくなってから、本当の作家になるんですよ》と記している。
●;「俺の言葉で世界を凍らせてみせる」と詩の一節で刻印した吉本隆明も<憎悪>を規定にしている。外在的な敵に対する憎悪として受け取った時期があったが、それとは異なる。古井氏の語り口に接したことがあるだけに「不気味な微笑」で語ったと島田雅彦が記述しているところが頷ける。古井氏の優しさは生々しいが、その眼の奥が厳かで怖い。こっちの腑を抉り、震撼させる。