●新宿歌舞伎町

紀伊國屋書店横の珈琲店に30分前に着く。一回りしようかなと思ったが店内で待つ。ホットコーヒーを頼む。この店の出来事を思い出す。紀伊國屋書店のイベント担当との打ち合わせを見かけた副社長がニヤッと笑って「タカオカ君に騙されるんじゃないよ」と言われた。「えっ、店外での打ち合わせは禁止なの?」と一瞬、びくついた社員を見た。丁稚小僧上がりの彼は会社の功労者で、社員からは怖い存在であった。会社のリスクを背負って梅田店の責任者としてオープンした頃、その店の繁盛ぶりを業界がこぞってヨイショする時、ルポルタージュをある作家にやらせたいと提案した。「おもしろいね」と言ってニヤッと笑ってくれた。顔はいたずらっ子のようであった。その副社長も何年か前に亡くなった、な。

待ち人来る。電話で話をした内容には不満げで別案を持ってきた。たしかにこっちの方が華やかだ。評判にはなりそう。だが、量的には売れないな。一時間ほど説明を聞いていつもの韓国料理店(歌舞伎町のど真ん中)に行く。韓国人の女主人が顔を覚えてくれる(たまにしか来ないのだが)。

話弾む。鶴見俊輔のこと。彼の<東大教授>嫌いは、父親の祐輔と言う俗物に対する近親憎悪。巨大俗物では平山郁夫のことに触れる。鶴見俊輔の大衆観について議論したかったが、彼は、岡本博の「映像批評」がテレビ制作者としては刺激的だったという。フーン、そうだったの。60年安保は、新人会戦後体制に対する反発の部分があると私。関川夏央の新刊、短歌の戦後史、奇才・中井英夫寺山修司中野重治の党コンプレックス。それを批判していた石堂清倫などなど。

途中、500円玉を握って3階の店にちょっと寄る。この店に寄る時は必ず、チップのようなものとしてママに渡す。元新宿のキャバレーのナンバー1・ホステスなり。「No1の女」の客あしらいの生態に興味あり。知り合いの女が第二子を出産したと教えられる。それはよかった。男の子だという。しあわせをつかんでいるな。