●参院選挙の日

●投票に行く。卒業した小学校が投票場だ。校舎が立て直し中であった。創立125周年とかの看板があった。だが、小子化のせいだろう。この学校も一学年がやっと一クラスだという話を相当前に聞いたことがある。旧い学校ではあるが、転校生のせいもあり、壊されている建物に格別の感慨もない。あるといえば講堂ぐらいか。

昔、この小学校の講堂では立ち会い演説会が開かれた。父親の手に引かれて行ったことが一度か二度ある。卒業式やら入学式とか学芸会とかの行事にしか使われない講堂はいかめしい雰囲気がある。その講堂に熱気のようなものが立ちこめていたのが演説会だった。薄ぼんやりとした記憶が残っている。大人のざわめきである。立会演説会は大概が夕方からだった。

父親が格別に政治に力を入れていたわけではない。まぁ、テレビが家に入ってくる前の一時の暇つぶしだったのかもしれない。政治が貧しい家から「政治家」が近いように思えた時代かもしれない。家の貧しさはどこも同じようなもので子ども心にはわからなかった(たまに立派な門構えの友人宅で出される紅茶とケーキにびっくりしたことはあっても)。

大人たちの立会演説会で何が話されているのか覚えていない。ただ、鈴木茂三郎という代議士が会場のどこからか「モサさん!」という声がかかる。中学校の裏手にある目立たない平屋建ての住人が彼であった。花道から現れる役者のようであった。声援に手を振って颯爽と登壇してくる姿はなかなかだった。

そして、何一つ自慢するものはなかったが、鈴木茂三郎の名前を知ったことがクラスで唯一の誇りだった。お前たちの知らない世界へ仲間入りしたんだぞ、と。