●「ヴェローチ」という珈琲店

●何年か前、自宅近くに「ドトール」が出店した来た。東急系「サンジェルマン」の後釜だ。「ドトールが出来たわよ」と家人は喜んだ。有名チェーン店の登場で自分たちが住んでいる街が一瞬、メジャーになったかのように受け取ったようだ。街の珈琲チェーン店では後発の「ヴェローチ」の方を好んでいる。珈琲のまずさはどっちもどっちで、ちょっとした雰囲気の差である。店員さんの態度もどちらかというと「ヴェローチ」の方が素人さがあっていい(と思っている)。

そのわが街に「ヴェローチ」が出店して来た。街には似つかわしくない高層マンションの1階、建設当時には反対運動も起こったマンションであるだけに地域住民には言葉にこそ出さないが、どこか疎ましい感情があり、その1階に「ローソン」が出たが、いつも閑散としていた。わが街はご多分にもれずコンビニがオーバーストア状態、経営者たちは何を考えているのだろうと思ったが、案の定、交代して「ヴェローチ」になった訳だ。

特養老人ホームにいる母に声をかけた後、その近くの図書館に寄って雑誌など読んで身体を冷やす。たまには、本も借りる。自転車を漕いでのホームへの行き帰り。一汗かいた後に、家近くの「ヴェローチ」に寄って借りてきた本を開く。それが日曜日の慣行になっている。店に滞在するのは長い時で一時間。

今日、借りた本は野崎六助『謎解き「大菩薩峠」』(解放出版社・97刊)。装幀がシャープ。手にとって見たら戸田ツトム+岡孝治、どうりでどうりで。50ページほど読む。野崎の本は一冊持っているが読んではいない。こんなに文体がいい人とは思わなかった。意外な発見。

大菩薩峠には何度か登った。人が訪れることない冬の峠はなかなかよかった。片岡千恵蔵主演の内田吐夢監督の「大菩薩峠」が印象深い。お浜を演じた女優の名前は思い出さないが、いかにも哀れな顔立ちが印象に残っている。野崎がこの映画を評価していることに親近感を持つ。内田吐夢という監督は、よっぽどの満州体験があるのだろう。「血槍富士」という凄惨な映画もそうだった。机龍之介という存在にデーモンを見つけたのか。